中世の町は美しい
乾 正雄
2004年 論創社
著者の乾氏は、建築や街の色彩について永年考えを巡らしてこられた日本では唯一の研究者といってよいであろう。
人間に年齢があるように街並にも年齢があるという新鮮な指摘にまず驚かされる。
そして、日本の街並の年齢がヨーロッパの中世都市等に較べ若いことは止むを得ないこととしながらも、今後、大都市を含め、日本の街並の年齢が100歳を超えることを期待している。
そうした考え方の背景のひとつとして、著者は吉田健一氏がパリの通りを歩きながら考えた、「何百年かの歴史がある大都会がその大きさ故に、そこに住んでいる人間の生活を少しも拘束せず」誰もが「ただの一箇の人間として」「飲み屋に入り、店で買いものをする。一市民であるというのはさういふことなので、市民として自覚したりする必要がある間はまだ都市は完成されず、市民の生活もまだ出来上がってはいない。」とする文章を紹介している。
中世都市の絵、ニュルンベルクの戦前戦後には筆者の熱い思いが感じられる。
都市における歴史の長さ、古さの価値の意味を様々な角度から考察している本書は、以前、発行された「夜は暗くてはいけないか」に相通ずるものを感じさせる。
なお、本書の中核をなすのは、街並の年齢を扱った章であるが、当会の会員にとっては、日本の街並は開放系であるとしてそのマンダラ性について触れている章も興味深いと思われる。
宮田 操 「公色ニュース」NO.3 2005.06 (公共の色彩を考える会発行)より
目次
第1章 街並は本屋の書棚に似ている
第2章 東京の姿かたち
第3章 ウィーンの姿かたち
第4章 街並の年齢
第5章 街並のマンダラ性というもの
第6章 街並がポリフォニーを奏でるとき
第7章 中世の町は美しい
第8章 都市における古さの価値