乾正雄先生を送る
小林茂雄 建築学科助教授


 建築学科教授乾正雄先生は、平成17年3月末日をもって定年を迎えられご退職されました。先生は平成7年に本学に教授として着任されてから10年間、教育と研究に携わられてきました。

 先生のご専門は建築照明、建築色彩と環境心理学で、いずれの分野でも日本において開拓者であり、それぞれの分野の発展のためにリードし続けました。ご活躍は若いころから目を見張るものがあり、たとえば環境心理学を学ぶ上で長年バイブル的存在であった「建築のための心理学」と「環境心理とは何か」の著書は、先生が30歳代のときに編集・執筆されたものです。また、建築視環境の研究分野では日本建築学会賞を39歳で受賞しています。

 先生の近年の活動は、専門分野にとどまらず、広く一般社会に目を向けたものであります。本学在学中にも、2つの一般書を出版されました。ひとつは「夜は暗くてはいけないか―暗さの文化論」(朝日新聞社)です。この本は「暗さ」が持つ魅力についてのみを、さまざまな切り口からしつこいくらいに書かれたものですが、新聞や雑誌の書評で取り上げられたこともあり、社会的な反響を呼び起こすことになりました。間違いなく現在の「暗さ」ブームの火付け役の中心的存在でありましょう。今でも、中学の国語の教科書や、様々な大学の入学試験の問題に採用されたりしています。

 昨年には「街並の年齢―中世の町は美しい」(論創社)を出版されました。この本はひとことで言って、街並が老いることのよさだけを述べたものです。ただし先生が目を向けられるのは、伝統を維持することや、ごみ問題、環境問題など、通常よくいわれるような観点だけではありません。実にさまざまな視点から、街並が古くなることの価値を切り出そうとしているのです。

 乾先生は私にとって恩師であり、また同じ分野の先輩として雲の上のような存在です。私が本学に着任したときのもっと大きい喜びは、先生から直接刺激が受けられることでした。これからは若干距離が遠くなってしまいますが、より自由な身になった先生から、より自由なアイデアが生まれることを楽しみに待っています。

 乾先生の最近書かれたエッセイの一部はウェブページで見ることができます。ぜひご覧になって、環境に対する新しい視点を共有しましょう。

 乾正雄ホームページ

武蔵158号より