「なめがわ温泉 花和楽の湯」で
低照度光環境の試行実験
2017年12月26日〜2018年1月16日


研究室で取り組んだこれまでの調査研究から、照度を抑えた暗い浴室は、利用者が求めるリラックス効果と一人で過ごせること、そして他者との親密な会話を促すことに寄与するのではないかと考えました。
そこで実際に営業中の温浴施設において、通常よりも低照度の光環境を設定し体感してもらうイベントを実施しました。

「なめがわ温泉 花和楽の湯」は、約2万平米の広大の敷地に、温浴棟、レストラン棟、休憩棟等が分棟形式に配置しており、それらを半屋外の回廊が接続しています。
有限会社アクアプランニングによる設計で、全体に和風に統一し、木質材料を主体とした落ち着いたデザインとなっています。
強アルカリ単純泉の温泉で、若年層から高齢者まで幅広い年代の利用者を持っています。




内湯も露天風呂も20(lx)を少し上回るように設計されており、元々通常の施設よりも暗めの照明設計がされています。
イベント時は特に露天風呂を対象とし、歩行径路の段差や浴槽の淵に光を照射する以外は浴槽内部に光を設けないようにしました。
既存の光源を入れ替えたり消灯したりすると共に新たな照明器具を配置し、施設の管理者に安全面の確認を取りながら最低限の光環境を構築しました。




最終的に露天風呂の湯面照度をは約1(lx)、足元を約5(lx)まで下げることができました。
また露天風呂以外も、施設へのアプローチや中庭も同じような考え方で小型のスポットライトや点光源を分散配置する手法へと変更しています。




低照度のイベントは2017年12月26日〜2018年1月16日の21日間実施され、期間中の入浴者数は、男女合計で9,727人でした。
照度を落としたことによる事故や苦情は全くありませんでした。
夜間の利用者の59人にアンケートをとったところ、約5(lx)程度の露天風呂でも、丁度良い明るさで、リラックス効果や同伴者との交流に効果があることが確認できました(下記表)。


                  表 利用者へのアンケート調査結果(59人)



温浴施設における照明計画、特に内湯や露天風呂というウェットゾーンに関しては光環境のバリエーションに乏しいのが現状です。「明るい→安全」「暗い→危険」という考えから照度基準に合致した均質的な照明計画が行われるのが一般的となっています。
また環境の特殊性から特に内湯に関しては防湿防雨型しか使用できず、選択範囲が狭く、設置場所も限定されています。

今回の試行実験の結果は、利用者が何を求めそして何を得るのかを踏まえて、それらを助長する光環境計画の新たな可能性を示すことができたといえるでしょう。
衣服を脱ぎ他人と湯を共有するという行為を行う温浴施設という特殊な空間において、内湯や脱衣所などを含めて、人間の心理や行動に与える影響という観点からさらに研究を重ねて実践していきたいと考えています。



【謝辞】
本実験は、小林研究室と有限会社アクアプランニングとの連携の元、カワラリゾート株式会社の全面的な協力を得て実施しました。
また東京都市大学人間科学部教授の早坂信哉先生からは、入浴医療の観点から貴重なご助言をいただきました。記して謝意を表します。