ストリート・ウォッチング
路上観察と心理学的街遊びのヒント


【著者】 小林茂雄+東京都市大学小林研究室
【発行所】誠信書房
【体裁】 A5判・158ページ
【定価】 定価(本体1300円+税)





はじめに

 街の風景は人々がいてこそ魅力的で、美しいものになります。建物や道路をいくら整備しても生き生きとした風景は現れず、人間だけを見ていてもその面白さには限界があります。街と人の両方を一緒に眺めたときに、それまで見えなかった相互作用的な関係が生じ、イマジネーションを刺激する風景が出現してくるのです。

 近年、街歩きがブームとなっています。しかしその多くは、名所旧跡を訪ねたり、ウィンドウショッピングをしたり、ドラマのロケ地を巡ったり、森林浴をしたり、ということに留まっているのではないでしょうか。それらを観賞して楽しむにしても限界がありますし、自分だけの楽しみを見出せるとは限りません。他人のつくった世界観をなぞるような街歩きでは、新しい発想は生まれにくいものです。

 街には人が生活しており、働いていて、絶えず移動しています。そして生活するための、働くための、移動するための施設があります。街なかの人と風景を、少し工夫しながら眺めてみましょう。それまで気づかなかったストーリーが感じられるのではないかと思います。

 この本では、街のどこに面白さが隠れているか、どういう見方をしたらいいか、どういう遊びができるかについて、できる限り多くのヒントを集めてみました。視点や時間をずらすことで見えてくる風景、ポイントを絞って観察することによって見えてくるルール、街の風景が私たちの体を動かそうとする力、人や風景を使ったゲームの仕方、などです。こうしたことをヒントにして、街の魅力を発見して欲しいと思っています。与えられたものでもなく見せようとするものでもない、人々がつくっていくドラマを、こっそりと発見していくのです。

 街にいる人や太陽の位置は刻一刻と変わっていきます。ある風景はその時にしか見ることができず、風景を使った楽しみ方もその瞬間にしか味わえないものです。それをみすみす見逃すのは、とてももったいないことです。楽しむ術を身につけて、街を歩き、電車に乗り、ショッピングをしましょう。通勤中に小説やマンガなんて読まなくても、メールなんてしなくても、面白いドラマはまわりに隠されています。その手がかりもたくさん転がっているのです。



目次

第一章 かんさつの方法
  • 観察の種類
  • 観察の道具
  • 観察時の心得
  • 時間を絞って観察する
  • 年齢と場所の相性を探る
  • 姿勢に着目する
  • 視線の高さを変える
    •  ①アンダー150の世界観
    •  ②オーバー180の世界観
  • 影に着目する

第二章 おススメ観察スポットの条件  
  • さぼり場
  • 似たもの同士が群れる場所
  • イベントの裏側
  • サブストリートの魅力
  • 聴覚と嗅覚で知覚する場所
  • 雨の日だけの特別なこと
  • 昔ながらの習わしがある場所
第三章 他人が持つ無意識の影響力
  • 伝染する他人の仕草
    •  行儀の悪い行為は連鎖する
  • 三大欲求が人の行動を支配する
    •  食欲・睡眠欲・性欲
  • 集団心理が街を変える
    •  人だかりは感動を呼ぶ準備になっている
    •  似たもの同士は集まる
  • 人を惹きつける行列の魔力
    •  楽しみを待つ行列
    •  並ばざるを得ない行列
    •  行列のフォーメーション
    •  行列を観察する

 
第四章 人を動かす街の風景
  • 思わず走りたくなる
  • 思わず立ち止まってしまう
  • 時を忘れてしまう
  • においから想像してしまう
  • 思わず踏んでしまう
  • 優越感に浸る
  • 思わず歌いたくなる
  • 寝ころびたくなる
  • 人のまねをしたくなる
  • 大声で叫びたくなる

第五章 心理学的街遊び
  • 今日を占う
  • 他人と競争する
  • ファッションチェック
  • 私生活を予想する
  • アテレコをつける
  • タイル遊び
  • 写真で街にストーリーをつくる
  • 足音で奏でる
  • 影遊び