ニューメキシコのクリスマスイルミネーション

小林茂雄


公色ニュースNo.33-1 2011.01



クリスマスのイルミネーションで印象に残る風景がある。


アメリカ・ニューメキシコ州サンタ・フェの知人の家を、クリスマスに訪ねた時のこと。
サンタ・フェは、プエブロ・インディアンが長く定住していた街で、日干しレンガを使って建造してきた住宅の伝統を今でも引き継いでおり、市内の全ての建築は茶色の塗装をしている。
そして冬になると雪が積もり、一面が白と茶の世界となる。


ニューメキシコの住宅地ではクリスマス・イブの一晩だけ、街路に光が灯される。
白色の路面の上に、昼間、茶色い紙袋が等間隔に並べられる。
大きさはA4の茶封筒程度である。中には砂が入れられて安定を保っており、真ん中にロウソクが一つ置かれている。



この紙袋が、道路の両脇にくまなく置かれており、住宅の前では曲線を描いて玄関先までつながっている。
家と家は離れているので、互いが協力しながら街全体に置いているようだ。

 


日没の時間になるとロウソクに火が灯される。
街路灯のほとんどない、真っ暗な夜に、ロウソクの光が紙袋で淡く拡散し、雪の上で柔らかく反射する。
この光は、幼いキリストが、迷子にならずに家にたどり着けるようにと、道路から家の玄関までつなげたものである。
キリストを家庭に迎える光であり、今では家族や来客を迎える光でもある。



茶色い街並みの中の茶の紙袋とロウソクと砂と雪。
そして住宅の窓あかり。
シンプルな要素でできた景観で、それだからこそ、目に入る情報以上のストーリーが街にあふれているように感じられる。

 



近年、世界中のクリスマス・イルミネーションは、LEDの電飾が積極的に用いられ、色鮮やかで明るくなった。
住宅地のイルミネーションも商業施設と同様な手法で飾られることが多くなった。
光や色を駆使して、自分の家を自分たちの手で飾るという機会はそうそうないものだから、光を楽しむということにおいてとても重要な季節であると思う。
その姿勢を基本的には応援したい。
しかし一方で、どこの街でもパターン化した装飾が増えていく傾向があることと、光を加えることが豊かな空間をつくり出すという固定観念があることにやや不安も感じる。


光によって街は明るく美しいものになる。
しかし明るい街は明るい光にだけによって生まれるものではない。
暗さの中にあたたかい火が灯る、抑えた表現の中に奥行きを感じさせる、そんなふうにイルミネーションされた街をもう少し歩いてみたい。